皇の時代にわたしを生きる実験(第3話)「信じないでね」の意味

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夜明け近くまで本を読み続けたミカは、そのままベッドへ倒れ込むように眠った。

どれくらい眠ったのだろう。
目を覚ました時には、部屋の中は薄暗くなっていた。
カーテンの隙間から見える空は茜色から群青色へと変わり始めている。
どうやら一日近く眠ってしまったらしい。
身体は重いはずなのに、不思議と心は軽かった。
ミカはゆっくりとベッドを出た。

キッチンで湯を沸かし、お気に入りのカップにコーヒーを淹れる。
立ちのぼる湯気を眺めながら、ぼんやりと昨日読んだ本のことを思い返した。あまりにも情報量が多くて、すべてを理解できたわけではない。
それでも胸の奥には、不思議な納得感が残っていた。

窓辺に腰を下ろし、一口コーヒーを飲む。
その時、ふと陽子さんの言葉がよみがえった。

「この本に書かれていることを、そのまま信じないでね。」

ミカはカップを持ったまま考え込んだ。
昨夜までは、その意味がよくわからなかった。
本当にそうなら、信じればいいじゃないか。
むしろ、この本はたくさんの人に読まれた方がいいのではないか。
そんなふうに思っていた。

けれど今は少し違う。

「自然はえこひいきをしない。だから、この理論が好き」と陽子さんは言った。

本を読んだ人だけが特別になるわけではない。
肩書きも関係ない。
誰かに認められる必要もない。
ただ、自然の法則に沿って生きればいい。
それだけのことだ。

だからこそ、陽子さんは「私のことは信じなくてもいいから、自然のことは信じてね」と言っていたのかもしれない。

ミカは再びコーヒーを口に運んだ。
そういえば陽子さんは、本の告知を大々的にすることを好まなかったと、新聞広告を出す話しを断ったのだと話してくれた。
有名になりたいのではないと言った。
「理論を守るため」だと言っていた。
正直、不思議だった。

本当に素晴らしい内容なら、もっと広めればいいのに。
なぜそんなに慎重なのだろう?そう思った。

自然の法則そのものは等しく変わらない。
だけど、言葉になった瞬間、人は言葉を自分なりに解釈する。説明する言葉は、人によっていくらでも別の意味を持ってしまう。

誰かが権威にしたり。
誰かが競争の道具にしたり。
誰かが特別になるために使ったり。

そんなことも起こるのかもしれない。

陽子さんが守りたかったのは、理論そのものというよりも、その向こう側にあるものだったのだろうか。

ミカは窓の外を見た。
街には灯りがともり始めている。

自然は今日も変わらずそこにある。
誰をえこひいきすることもなく。
誰を特別扱いすることもなく。
ただ静かに。
ミカはカップを両手で包み込んだ。
そして小さく微笑む。
「なるほどね」

まだ全部わかったわけではない。
これから先、自分で生きながら確かめていくことになるのだろう。

信じるのではなく、実践してみる。

そして、自分が見た景色を記録していく。
そんな始まり方はじつに私らしい。

ミカは静かにペンを手に取った。
誰かを説得するためではなく。
正しさを証明するためでもなく。
ただ、自分が見た景色を書き留めるために。

春はあけぼの。
そんなふうに始まる大好きな随筆のように、
私は、私に見えた世界を書いてみようと思う。
私の気づきは、どこかで誰かの気づきになるかもしれないし、ならないかもしれない。でも、それでいい。

ミカはペンを走らせた。

2025年冬至前後に観測された、世界と人の動き「祖の世界」と「皇の世界」の分岐点 

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