皇の時代にわたしを生きる実験 (第5話)つむぎからの手紙

共鳴小説
スポンサーリンク

朝の片付けを終えたミカは、お気に入りのカップにコーヒーを淹れてテーブルに座った。窓の外では風が木々を揺らしている。

テーブルの上に置いてあった封筒を手に取った。

差出人は、ひびきの輪で出会った中学生の女の子だ。

アイの農場での収穫祭以来、ひびきの輪で出会ったみんなにミカは手紙を書いていた。
どうしているだろうと思っていた頃につむぎから返事が届いた。

便箋のほかに紙がぱらりと滑り落ちた。

「ふふふ」

思わず笑みがこぼれる。

色鉛筆で描かれた絵だった。

丸いお皿に盛られたランチプレート。

湯気の立つスープ。

焼きたてのパン。

色鮮やかなサラダ。

そして、小さな焼き菓子。

絵の隅には、つむぎらしい丁寧な文字で説明が添えられていた。

『お母さんのスープ』

『新しく考えたランチ』

『もしカフェができたら出したいごはん』

『私の好きなパン』

眺めていると、まるでその香りまで漂ってくるようだった。

ミカは微笑みながら手紙を開いた。

ミカさんへ
こんにちは。

お元気ですか?

私は元気です。

3年生に進学してから少しずつ学校に行っています。

前は学校に行けなかったら人生が終わるような気がしていました。
でも、ひびきの輪でたくさんの人に会って、学校だけが世界じゃないんだって知りました。
だから前より気持ちが楽になりました。
毎日ではないけれど、行ける日は行っています。

ミカは読みながら、ひびきの輪の日を思い出した。
緊張した表情で母親の隣に座っていたつむぎ。

得意な絵の話になると、急に目が輝いて嬉しそうにしていた。

お母さんは最近とても楽しそうです。
カフェの話をよくしています。
前より笑うことが増えました。私はその話を聞くのが好きです。

もし本当にできたらステキだなと思っています。

ミカの口元が自然と緩んだ。
尚子さんの夢は、あの日だけの話ではなかったらしい。

ちゃんと今も育っている。

種が土の中で芽を出すように。

少しずつ。

私も将来について考えるようになりました。
絵はこれからも描きたいです。

でも、お家でカフェをやるなら他のことも知った方がいいと考えて
商業高校へ進学したいと思っています。

なので、勉強も頑張っています。

「へえ」
ミカは思わず声を漏らした。

自分を閉じていた少女が、好きなことをもっと広げるために

新しい世界に興味を持ち始めている。

自分なりの未来を考えていることが伝わってきた。

便箋はまだ続いていた。

絵をたくさん入れました。
お母さんがカフェで作りたいと試作したごはんです。

カフェのメニューが決まったら、メニュー表の絵を
私が描くと決めています。お店の看板の絵も描く予定ですが、
まだ、お店の名前も何も決まってはいません。

もしよかったら遊びに来てください。
お母さんも会いたがっています。

カフェ風でおもてなししたいそうです。

私もミカさんに会いたいです。
待っています。

つむぎ

手紙を読み終えたミカは、しばらく黙って窓の外を見た。
風が木の葉を揺らしている。

空には白い雲がゆっくり流れていた。

不思議だな、とミカは思う。

何かを頑張って動かそうとしなくても、こうして人とのつながりは続いていく。

仕事を辞めてからの数か月。

焦ることをやめてみた。

流れを信頼してみた。

すると、思いがけないところから連絡が届く。

続いていく縁はある。

そんなことが何度も起きていた。

ミカは新しい便箋を取り出した。

万年筆の蓋を開く。

そしてゆっくりと書き始める。

つむぎちゃんへ

お手紙ありがとう。

とても嬉しく読みました。

絵もたくさん見せてくれてありがとう。

どれもとても素敵でした。

尚子さんのごはんが美味しそうで、お腹が空いてしまいました。

ぜひ遊びに行かせてください。

会えるのを楽しみにしています。

ミカ

書き終えると、ミカはペンを置いた。
次の予定が決まった。

決めたというより、向こうからやって来たという方が近いかもしれない。

ミカはコーヒーをひと口飲んだ。

少し冷めていたけれど、それも悪くなかった。

さて。

今度は会いに行ってみよう。

窓の外では、風が気持ちよさそうに吹いていた。

スポンサーリンク

関連記事

銀河のリズム、地上の鼓動 ―魂職に出会うまで⑩ はじまりのささやき―尚子の目線

銀河のリズム、地上の鼓動ー不登校と自立共育①家族の距離 

銀河のリズム、地上の鼓動ー不登校と自立共育②ゆっくり、のんびり、ゴロゴロ、ボーッと

銀河のリズム、地上の鼓動ー不登校と自立共育③皇の時代は他人の領域に入り込まない

銀河のリズム、地上の鼓動ー不登校と自立共育④皇の時代は自分の周囲40センチから始める

皇の時代の日々『日常に広がる光と響き 』①風が運ぶ再会の午後 

皇の時代の日々『日常に広がる光と響き 』②アイからの今ここを味わう収穫祭への招待状 

皇の時代の日々『日常に広がる光と響き』③あの場所からの手紙 

皇の時代の日々『日常に広がる光と響き』④内なる神の祝宴 ひびきの収穫祭 

皇の時代の日々『日常に広がる光と響き』⑤夕暮れに吹く新しい風 

タイトルとURLをコピーしました