皇の時代にわたしを生きる実験 (第6話)皇流に過ごす一日

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皇の時代にわたしを生きる実験 (第4話)自然さん、他多さん、冊奴さん

書いた返事を封筒に入れたミカは、近所のポストまで歩いて行くことにした。

手紙というのは不思議だ。
書いている時間も楽しいし、送り出す時も嬉しい。
メールやメッセージとは違う温かさがある。
「さて、出してこようかな」
ミカは帽子をかぶり、家を出た。

できるだけゆっくり歩く。
それが最近のミカのペースだった。

風が心地よい。
ふと、道端に咲く黄色い花が目に入った。
その隣には白い小さい花が咲いている。
「かわいい」
思わず足を止めて眺める。
どこからか小鳥のさえずりも聞こえてきた。

理論書には
「目につくものは、自分の内側の反映だ」と書かれていた。
もし、やたらゴミや嫌なものばかりが目につくなら、自分の中にもまだ片付いていないものがあるのかもしれない。

けれど最近のミカには、美しいものばかりが目に入る。
それだけで、なんだか嬉しかった。

信号に差しかかった。
歩きながら近づくと、ちょうど青に変わる。
「あ、ぴったり」
待たされることなく、そのまま渡る。

自然の今と、自分の今。
それが合っている時は、不思議とこんなことがよく起こる。

気がつけば、ミカは小さな声で口ずさんでいた。
♪やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ♪
ユーミンの歌を口ずさみながら、ミカは笑った。

子どもの頃から好きな歌だ。

本当にその通りかもしれない。
今なら、その意味がわかる気がする。

風も、花も、小鳥の声もすべて、
今日という日そのものが、何かを伝えてくれているように感じる。
そんな時、自然と一体になったような安心感に包まれるのだった。

ポストに手紙を投函すると、そのままスーパーへ向かった。
店内を一周する。
グレープフルーツジュース。
白ワイン。
トマト。
レタス。
チョコレート。
買いたいものはすぐに決まった。
以前のミカなら、どれにしようかと売り場の前で立ち止まり、あれこれ考えていた。
本当に必要かな?こっちが得かな? 最近は違う。
「あ、これ」
そう思ったら、パッと手がのび、自然にかごに入る。

「体の中の祖の時代のゴミがたくさん残っていると、自分で決められなくなる」と書かれていた。

確かに、最近は迷うことが減ってきた。

ゴミ出しの浄化・消化が進んでいるのかもしれないな
そんなことを思いながら、ミカはレジを済ませた。

買い物を終えると、近くのカフェに入った。
窓際の席に座り、メニューを開く。
「キーマカレー」
その文字が目に入った瞬間に決まった。
店員さんが来る。
「キーマカレーをお願いします」

以前なら、パスタもいいな、ハンバーグにしようかな、などと考えていた。

運ばれてきたキーマカレーから、スパイスの香りが立ちのぼる。
一口食べる。
美味しい。
窓から差し込む光、店内に流れる音楽も店員さんも穏やかだ。
一つひとつを味わう。
ミカは、五感で感じるということが豊かさなのだと思った。

家に帰ると、午後の光が部屋に柔らかく差し込んでいた。
買ってきたものを片付ける。

そしてソファに横になった。
窓の外から小鳥の声が聞こえる。
気がつくとうとうとして、少しだけ眠っていた。
目を覚ますと、時計は三時を少し回っていた。

「よく寝た、体が軽いかも」

ミカは起き上がり、グレープフルーツジュースをグラスに注いだ。

なんとなくテレビをつけた。
旅番組で横浜の街並みが映し出された。

「皇の時代には、テレビのチャンネルが数百種類にもなって、その人の波長に合わせて必要な情報がパッと映し出されるようになるの。何でも必要なもの、こと、人は思う前に来るのよ」

「理論の研究を始めた頃には、まだ世に登場していなかったYouTubeがまさにそんな感じですよね?」

そんな陽子さんとの会話を思い出した。

好きな番組を見て笑ったり、ぼんやりニュースを眺めたり。
お腹が空けば夕食を食べる。
お風呂に入る頃には、空には星が見え始めていた。
髪を乾かすと、5年日記を開いた。
今日も一日を振り返る。
手紙をポストに投函したこと。
花がきれいだったこと。
小鳥の声が心地よかったこと。
キーマカレーが美味しかったこと。
少し昼寝をしたこと。

特別なことは何もない、なんでもない一日。
けれど、それでいい。

以前は何かを成し遂げなければ価値がないような気がしていた。
最近はそうでもない。
穏やかな一日を味わえること自体が、十分に幸せだと思えるようになった。

ミカはペンを置いた。
時計を見ると、十時。

最近はその時間になるとベッドに入る。
部屋の明かりを消す。
そして、今日も小さな声でつぶやく。
「よかった。
今日も楽しくて、幸せで、本当によかった。」

どんな一日でも、最後は「よかった」で終わる。
そうすると、また明日も「よかった」が続いていく。

「寝る前によかったの種を植えるのよ」そんな話を聞いたのが始まりだった。

どんな日でも、最後は「よかった」で終わらせる。
嫌なことがあった日も。
うまくいかなかった日も。
寝る前には「よかった」と言ってみる。

「実験だと思ってやってみて」
陽子さんもずっと続けていると言っていた。

本当かどうかはわからない。
でも、そうやって生きる方が楽しい。
気がつけばこれも習慣になっていた。
だから今日も言う。

「自然さん、他多さん、冊奴さん、明日もよろしくお願いします。」

窓の外では、静かな夜風が木々を揺らしている。
明日はどんな一日になるだろう。
まあ、それは明日のお楽しみ。
そんなことを思いながら、ミカは安心した気持ちに包まれ、ゆっくりと眠りについた

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