朝から激しい雨だった。
窓ガラスを打つ雨音が、部屋の中に静かに響いている。
今日は特に出かける予定もない。
ミカはお気に入りのマグカップにお茶を入れ、しばらく窓の外を眺めていた。
灰色の空。
風に揺れる木々。
勢いよく流れていく雨水。
「すごい雨だなぁ」思わず声に出る。
こんな日は、大自然が祖のゴミを地球規模で浄化・消化をしてくれているのだ。
「精神的なゴミは風や竜巻を使って消化・浄化する。生命、寿命のゴミは雷が浄化・消化する。物質、経済、お金のゴミは浄化・消化は雨が行う。」と理論書には書かれていた。そして、ゴミの量と風、雷、雨の強さは比例するのだという。(大転換きの後 皇の時代 P38より)
ミカは激しく降る雨を見つめた。
近年は、異常気象という言葉をよく耳にする。
大雨や暴風、記録的な暑さ。
それらはゴミの多さを表しているのだ。
理論書には、転換期が終われば一年中温暖な気候になると書かれていた。
「まだまだ、ゴミがたくさんあるんだ・・・、いつまで続くのかな」
雨音だけが返事をした。
ミカは、世界中で起きている大きな変化を思った。
これまで当たり前だと思われていた価値観。
社会の仕組み。
政治。
経済。
会社。
働き方。
教育。
家族のあり方。
様々なものがガラガラと音を立てるように変わり始めている。
陽子さんは言っていた。
「今までの常識や社会の仕組みが崩れているのは、宇宙のプログラムによる宇宙と自然の意思による変化なのよ。だから人の力で止められるものじゃないの」
窓の外では、相変わらず激しい雨が降り続いている。
ミカは自然の大きさを思った。
人間が理解できることなど、ほんのわずかしかないのかもしれない。そう思うと、不思議と怖さよりも畏敬の念が湧いてくるのだった。
ミカはお茶を飲み終えると、掃除機を取り出した。
久しぶりに棚の奥まで拭いてみる。
引き出しの中も整理する。
いらなくなった紙をまとめる。
なんだかミカも、ゴミ出ししたくなったのだった。
掃除を終えて一息ついた時、スマートフォンが鳴った。
画面には、見慣れない電話番号
「もしもし?」
『ミカさん、こんにちは』
懐かしい声だった。
『お手紙ありがとうございました。つむぎもすごく喜んでいて』
「こちらこそ、美味しそうな絵をたくさん送ってくれて嬉しかったです。」
受話器の向こうで尚子が笑う。
『あの子、最近食べ物の絵ばかり描いてるんですよ』
「そうなんですね」
ミカは思わず微笑んだ。
『尚子さんも最近楽しそうだって、お手紙に書いてありましたよ』
ミカがそう言うと、
『そうなんです。つむぎが学校へ行けなくなった頃は、どうしていいかわからなくて。でも、あの子のおかげで自分を見つめ直すことになって…』
尚子は少し照れたように笑った。
『本気でカフェをオープンさせようと思って。まだ先の話ですけどね』
「尚子さんのお料理食べたいから、楽しみです」
二人はしばらく笑った。
そして尚子が言った。
『もしよかったら、今度の土曜日、遊びに来ませんか?お昼ご飯作りますから』
「わぁ、嬉しいです!」
『決まりですね』
電話を切る頃には、窓を叩く雨も少し静かになっていた。
土曜日。
朝からよく晴れていた。
まるであの日の雨が、本当に何かを洗い流してくれたようだった。
ミカはお気に入りのバッグに、お土産に用意した蜂蜜を入れた。
途中でかわいらしい花も買った。
きっと尚子さんもつむぎちゃんも喜んでくれるだろう。
駅に着くとちょうどタイミングよく電車が来た。
車内はほどよく混んでいるが、空いている席に座ることができた。
電車に揺られ、知らない街の景色を眺める。
駅を降りると、空は高く、風が気持ちいい。
住宅街をゆっくり歩いていく。
「あ、ここかな?」
手紙に書かれていた住所。
白い壁。
玄関の横には、色とりどりの花が咲いていた。
「ステキなお家。もうカフェみたい」
さて。
どんな一日になるのだろう。
ミカは小さく深呼吸すると、玄関のチャイムに手を伸ばした。
――ピンポーン。

