皇の時代『この世界は、あなたに話しかけている』⑦呼ばれるようにして出会うとき

共鳴小説
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夕暮れ時、作業小屋のパソコンに新着メールの通知が点滅していた。
カズオは手を拭き、画面を開く。

件名にはこうあった。
──「あなたの実験を拝見して」

差出人の名前は「小山田陽子」。

以前、『データの共有を始めませんか?』というコメントをくれた研究者だった。どこかで聞いたことのある名に、胸がわずかにざわめいた。

本文を読み進めるうちに、そのざわめきは静かな震えに変わっていった。

『EARTH HARMONY LABOのホームページを拝見しました。
わたしが長年取り組んできた「人と自然の共鳴の理論」と、
あなたの言葉には深い響き合いを感じます。

よろしければ一度、直接お会いしてお話しできないでしょうか。
もし可能なら、私の住む横浜で小さな勉強会のような形を開き、
若い世代ともご一緒に、場を共にできたらと思います。』

──読んだ瞬間、時が止まったように思えた。

「……やっぱり、時代が動いてるんだな」
思わず小さく呟いた。

***

夕食の席で、カズオはメールの内容を家族に話した。
アイの瞳がぱっと輝く。

「すごい!ホームページを公開したばかりなのに、もう共鳴してくれる人が現れるなんて……」

母もにっこりと頷いた。
「必要な人には、必要なタイミングでちゃんと届くのね。皇の時代って、ほんとにそういう流れなんだわ」

カズオは深くうなずき、照れたように笑った。
「俺ひとりじゃとても動けなかった。けど……もう迷う理由はない。ユウさんとミカさんも誘って、小山田陽子さんに会いに行ってみないか?」

***

その夜、アイは早速ミカとユウに連絡をとった。
Zoomの画面に三人の顔が並ぶ。

「ねえ、聞いて!小山田陽子さんっていう研究者の方から連絡があったの。横浜でひびきの輪を開きませんかって!」

「えっ、ほんと?」ミカが声をあげた。
「横浜!行ってみたーい!!」

ユウは静かに目を細め、画面越しに言った。
「タイミングが完璧すぎるよ。導かれてる感じ。それって……時代が整って、必要な人が出会うってことだね。アイが動き出したからこそ、扉が開いたんだと思う」

アイの胸は熱くなった。
「そうだね。私たちのひびきの輪が広がって届いたんだ。これはきっと、新しい輪の始まりだよ」

三人の視線が重なり合い、言葉はなくても同じ確信が広がっていった。

──こうして、農場から飛び出し、横浜へ。
世代を超えた響環は、時代の後押しに導かれながら広がろうとしていた。

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封じた夢の再燃

光が車内に差し込む。
カズオの運転する車には、助手席にアイ、後部座席にユウとミカが座っていた。

「カズオさん。……もしよかったら、宇宙農法について教えてもらえますか?」ユウが口を開いた。

バックミラー越しにユウを見たカズオの目が、少し柔らかくなる。

「そうだな……。きっかけは、子どもの頃に祖父に連れられて行った干潟なんだ。潮の匂い、鳥の声、泥に足を取られる感覚……あれが強烈に残っててな。幼心に生きものも、人間も、同じリズムで動いてる気がしたんだ。」

アイが横顔を見つめながら、ふっと微笑んだ。
「お父さん、初めてちゃんとその話してくれたね」

カズオは少し笑って視線を外す。

「それから大学に入って、環境学を専攻したんだけど……運よく出会った先生が、自然と人間の相互作用を研究しててな。植物の育ち方が、人間の意図や暮らし方とどう関係しているかを探っていた。そこでこれは一生のテーマになると確信したんだ」

ミカが少し前のめりになって聞いた。
「それで、農業を通して理論を試すっていう夢になったんですね!」

ユウも静かにうなずく。
「干潟の記憶と大学の理論……その両方があるから、地球と響き合う農場共鳴研究所っていう発想に繋がってるんですね。なるほど、背景を知るとすごく腑に落ちます」

カズオの目がふっと影を帯びる。

「正直言うと、若い頃は農業を継がずに大学や研究機関で自然と人間の関係をちゃんと研究したかったんだ。でも、親のこともあったし、生活もあった。夢を追うのは、いつでも後回しになってしまったんだ。理屈じゃなく、目の前の現実を優先するしかなかった」

ユウが頷き、窓の外を見つめながら静かに言った。
「時代が整って、夢も人も呼ばれたんですね。カズオさんの夢に、ちゃんと時代が応えてくれた」

「そうなんだ。この時代になって封じてきた夢が呼び覚まされた気がする。アイが、農業は手段だって言っただろ?あの瞬間、気づいたんだ。理論の研究も、今こそやっていいんだって」

ミカが目を輝かせた。
「なんか……映画みたいだね!長年封じてきた想いが、娘の言葉でこんなふうに花開くなんて」

車内の空気が、柔らかく包まれる。
沈黙の中に、それぞれの胸に芽生えた確信が広がっていった。

カズオは深く息をつき、ハンドルを握りなおした
「ありがとう。俺の夢が再び動き出すのも、君たちのおかげだ。」

車内の空気が、さっきよりもあたたかくなっていた。
年齢も立場も違うのに、まるで同じ船に乗る仲間のような安心感。

アイがぽつりと言った。
「こうしてみんなで一緒に横浜に向かってるの、なんだか必然だった気がする」

ミカが笑って応じる。
「うん、共鳴って、こうやって広がっていくんだね」

ユウは窓の外の空を見ながら、静かに言葉を重ねた。
「時代が整って、必要な人が出会う。……それは、私たち自身が出会い直したパラレルなのかもしれない」

車は、光の帯を追いかけるように横浜へと走っていった。
これからの新しい出会いが、すでにその車内で始まっているかのようだった。

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