共鳴小説『三つの種、響きのはじまり ― 銀河のリズムの前奏曲 ―』地の章 ①大地の声に気づくまで

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アイ・ユウ・ミカの3人が出会う前の物語・・・

地の章 -大地の声に気づくまで-

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第一章:役割と本質のあいだで

朝7時、目覚ましが鳴る前にアイは目を覚ました。
スマホを手に取ると、すでに社内チャットには数件の通知が届いている。チームリーダーとして担当しているプロジェクトの進捗報告と、部下からの質問だ。

「…よし、今日もやるか」

髪をまとめ、シンプルなメイクを施し、グレージュのスーツに袖を通す。
都会のビル群に溶け込むような出で立ち。しっかりとした足取りで、電車に乗り込むと、窓の外を眺めた。
小さな畑の横を通りすぎるとき、ふと父の顔が浮かんだ。

(そういえば…最近、連絡してないな)

仕事のことを考えようと頭を切り替える。今はそれどころじゃない。
クライアントへの提案資料の修正。後輩が作った資料は悪くないけれど、詰めが甘い。自分で直した方が早い――そう思ってしまうのがアイの性分だった。

社内では“頼れる姉御”的存在。トラブルにも冷静に対応し、周囲の信頼も厚い。けれどそれは、誰にも弱みを見せられないということの裏返しでもあった。

頼まれごとは断れなかったし、部下に任せるくらいなら自分でやった方が早いと思っていた。
結局、いつも気づけばひとりで背負っているような気がする。

周りには「困ったら言ってね」と言いながら、自分は誰にも本当には頼れずにいた。

ある日、社内会議が終わって、資料の整理をしていたときだった。携帯が震えた。
母からのメッセージ。「お父さん、倒れたの。今は意識あるけど、病院に運ばれたから」

え? 一瞬、何も聞こえなくなった。テキパキと会議室を片付けて、休憩室へと急ぐ。

「お母さん…お父さんは大丈夫なの?」

折り返し母に電話をかけると、父の容態は安定していた。
しばらく入院が必要だが、命に別状はないとのことだった。

母が言った。「すぐに帰って来られる?農業は待ってくれないのよ」

「わかった。帰れるように、休みも取って調整するから」

アイはぎゅっと唇をかんだ。
自分がずっと「向き合ってこなかったこと」が、真正面から差し出されている気がした。

『何があってもこの土地は守り続ける。俺がやるだけのことだ。お前には関係ない』

もう若くはない父の身体を心配する母や私の声はいつも父には届かなかった。暮らしやお金のことなら、農業以外にだってやりようはある。父が倒れた今、これからどうするのか――「農業を継ぐか、継がないか」という二択ではない。

責任感が強くて、他人を頼らず、自分で背負い込む。
それが父であり、そして――自分自身でもある。

父に反発してきた部分は、実は自分の中にもあった。
だからこそ、反発していたのかもしれない。

帰りの電車の中、スマホを取り出して調べてみる。

「これが、今の日本の農業…?」

耕作放棄地、後継者不足、自給率の低さ。
そこに並ぶ数字と現実のギャップに、頭がくらくらした。

経済合理性が優先されるなかで、効率や収益性ばかりが語られ、「生命を育む」という本質は、どこか遠くへ追いやられているようにも思えた。

ふとこの時、ネットで見つけた言葉が目に留まった。

土の声は置き去りにされている。

「農は、祈りであり、循環である」どう在るか、どんな意識で関わるか――そこに本質があるのではないか?

それを自分が背負うべきなのかは、答えは出なかった。

けれど、アイは心の奥で知っていた。
自分の中の“何か”が動き始めていることを。

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