共鳴小説『三つの種、響きのはじまり ― 銀河のリズムの前奏曲 ―』地の章③根の声を聴く

共鳴小説
スポンサーリンク

銀河のリズム、地上の鼓動-わたしたちは響き合うために出会った-をキャッチしてくださったあなたへ

アイ・ユウ・ミカの3人が出会う前の物語・・・

共鳴小説『三つの種、響きのはじまり ― 銀河のリズムの前奏曲 ―』地の章 ①大地の声に気づくまで 

共鳴小説『三つの種、響きのはじまり ― 銀河のリズムの前奏曲 ―』地の章 ②土の声に耳をすませて

スポンサーリンク

第三章「根の声を聴く」

父の本棚に挟まれていた一冊のノートには、雑多なメモやスケッチが走り書きされていた。
自然農法の実践記録にまじって、時折、哲学のような言葉が綴られている。

「種は、人の意識を映す鏡である」
「どんな心で蒔くかが、やがて作物に表れる」
「自然は、すべての答えを静かに示している」
ページをめくるたびに、土を耕しながら考えていたであろう父の姿が浮かんできた。

(お父さん…)

言葉に出さなくても、伝えようとしていたものが、確かにあった。
あの沈黙の背後には、ただの苦労や我慢だけじゃない、深い信念が息づいていた。

アイは気づいた。
これまで、父の生き方を“古いやり方”だと思い込んでいたのは、自分だったと。

台所で野菜を刻む母にアイは尋ねた。

「お父さん、昔からあんなふうに考えてたの?」

「ん? どんなふうに?」

「自然とか、命のこととか。農業を“育てる仕事”としてじゃなくて、“聴く仕事”だって思ってたのかなって…」

母は少し笑って、「あの人ね、たまにね、畑に話しかけてるのよ」と言った。

「話しかける…?」

「うん、種を蒔く前に“どうかよろしくお願いします”って言ってたり、収穫のときに“ありがとう”って。たぶんね、ほんとうに“聴いてた”んだと思うよ」

アイは黙って頷いた。

自分も、もっと知りたい。
“どう育てるか”ではなく、“どう在るか”ということを。
この土地が知っている記憶や、父が大切にしてきたものを、自分の中にもしっかりと刻みたかった。

それから数日間、アイは空いた時間をすべて使って、本を読んだり、ネットで情報を探したりした。
父の言葉を辿っていくうちに、自分が感じていた「違和感」に、ようやく輪郭が与えられていく。

今は「祖の時代」から「皇の時代」へと移行する大きな転換期である
祖の時代は、苦労してものを造ることがテーマ
皇の時代は、宇宙のエネルギーを活用して生きる時代
さらに時代が進むと自分の「魂職」に出会える

(わたしが感じていた“空虚さ”は、この時代の違和感だったのかもしれない)

家に戻ってきた父がぽつりと言った。

「一人でできる限界もある。オレが一人でやれなきゃ、続けられないってことだ」

(それって、わたしが会社で思ってたことと同じじゃない?)

一人で背負うことの限界に気づきながらも、
それを認めるのが怖かった――父も、アイも。

だけどその中で、ひとつの思いが芽生え始めていた。

無理や犠牲ではなく、心から望むことを、
「わたし自身」の責任で、選んで生きていきたい。

その思いが、“農”という場とつながった瞬間――
アイの中に、小さな決意の火が灯った。

(これは、誰かに頼まれた仕事じゃない)
(わたしが、自分で選ぶ生き方だ)

会社に戻る期限が近づいていた。
でも、心はもう決まっていた。

「会社を辞めようと思う」
両親にそう告げると、母は少し目を丸くしたあと、深く頷いた。

「…そうなると思ってたわ。そういう顔してたもの、最近のあんた」

アイは笑った。久しぶりに心の底から、自然にこぼれた笑みだった。

会社に復帰してからの数日間。
引き継ぎや退職の相談を、ひとつひとつ丁寧に進めた。
反対されることも、慰留されることもあったけれど、アイの心は揺らがなかった。

自分の存在を、“会社の歯車”としてではなく、
“自分にしかできないこと”で輝かせたい。

都会の喧騒のなかで、自分の“役割”に埋もれそうになっていた日々。
けれど今は、“本質”の声が、確かに自分の中で根を張りはじめていた。

再び畑に立ったとき、空はすっかり春の色をしていた。
風が柔らかく、土はまだ少し冷たい。

鍬を手に、種を一粒、地面に落とす。
アイは、小さな声でつぶやいた。

「どうかよろしくお願いします」

それは、祈りだった。
そして、新しい人生の第一歩だった。

関連記事:共鳴小説

共鳴小説『三つの種、響きのはじまり ― 銀河のリズムの前奏曲 ―』地の章 ①大地の声に気づくまで 

共鳴小説『三つの種、響きのはじまり ― 銀河のリズムの前奏曲 ―』地の章 ②土の声に耳をすませて

銀河のリズム、地上の鼓動-わたしたちは響き合うために出会った-をキャッチしてくださったあなたへ

タイトルとURLをコピーしました