~リトリート3日目・午後~
チェックアウトの時間が近づき、3人はゆっくりと荷物をまとめていた。
ふと、リビングから柔らかな弦の音が聞こえてきた。
「……ギター?」
ミカがそっとのぞくと、ご主人が古びたクラシックギターを膝に乗せて、何気なく爪弾いている。
「わあ…」
「音って、不思議ですよね」
ユウがつぶやくと、ご主人が笑ってこちらを向いた。
「音はね、周波数なんだよ。言葉になる前の“波”だ」
「周波数…」ミカが小さく繰り返す。
「人の声も、心も、全部それぞれ固有の周波数を持っている。調和すれば、共鳴が起きる。逆にズレてると、不協和音になる。…でも、同じ“音”を持つ魂たちは、自然と惹かれ合うものなんだ」
「まるで…わたしたちのことみたい」
アイが小さくつぶやいた。
ご主人は笑って、さらに弦をなでるように鳴らした。
すると、奥から奥さんが姿を現した。目を細めながら、彼の演奏に耳を澄ませている。
「ねえ、あなた。あの曲、久しぶりに弾いてあげたら?」
「いいね。君の声、響かせてあげて」
奥さんは少し照れながらも、真っ直ぐに立って、歌い出した。

遥かな星の 記憶をたどる
水面に揺れる ひとしずくの音
かすかな光 忘れた名を呼ぶ
あなたはもう 知っている
どこから来て どこへ還るのか
風を越えて 時を越えて
響きはふたたび巡りあう
いま その胸の奥
眠るこだまに 耳を澄ませて
目覚めの歌が あなたを包む
3人は、まるで時間が止まったように、その歌に聴き入った。
ミカの目に、自然と涙がにじんでいた。
それは悲しみではなく、ただ「懐かしい」と感じたから。
歌が終わると、しばらく誰も言葉を発さなかった。
ようやくミカが小さく言った。
「今朝の夢の歌みたい……すごく、懐かしい気がしました。」
「わたしも…どこかで、聴いたことがあるような」
ユウが首を傾げ、アイも静かにうなずいた。
奥さんは、ふふっと微笑んだ。
「きっとね、あなたたちの魂が覚えていたのよ。…だって、うちのペンションに来る人たちは、ただの“お客さん”じゃないもの」
ご主人がギターを優しく撫でながら、続けた。
「ここに来るってことは、何かしら魂の縁があるってこと。だから、こうしてまた出会えた。必要なときに、必要な仲間と、必要な場所でね」
「……また、来てもいいですか?」
ミカが、ぽつりと聞いた。
奥さんはまっすぐにミカの目を見つめて、力強くうなずいた。
「もちろん。いつでもいらっしゃい。ここは“響き”を思い出す場所。あなたたちの音が、必要になったら、またきっと呼ばれるから」
3人は、胸いっぱいの思いを抱きながら、深く礼をした。
ペンションを出ると、湖面にまぶしい光が反射していた。
まるで、彼女たちの旅立ちを祝福しているかのように。
「ここに来て、よかったね」
「うん……ここから、“本当の旅”が始まる気がする」
それぞれの手のひらに、まだギターの余韻と歌の響きが、静かに残っていた。
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