朝、湖畔に柔らかな霧が立ち込めていた。鳥たちのさえずりが、ペンションの木の壁に反響して、目覚ましのように静かに響く。
ユウがそっと窓を開けると、ひんやりした空気と一緒に、草木の匂いが流れ込んできた。
「…きれい」
カーテンの向こうでミカが眠たそうに起き上がる。リビングに降りると、既にアイがテーブルを囲んで、ペンションのご主人と奥さんと話し込んでいた。
「おはよう、ゆっくり眠れた?」

アイの声が柔らかい。ユウとミカも席につくと、奥さんが笑顔でミントティーを出してくれた。
「この場所はね、自分たちが心をほどける場所を作りたくて始めたの。ここに来る人は、なぜか本音を思い出してしまうみたいなのよ」
「本音…」とミカがぽつりとつぶやいた。
「ねぇ、わたし思うんだけど…人って、ほんとうは“自分の本音”に向き合うことが、一番怖いんじゃないかな」
ユウが少し考え込むようにしてうなずいた。
「うん。自分で本音を隠してることにさえ気づかないようにして、無意識にフタをしてる。だって、見ちゃったら崩れてしまいそうで…」
「でもさ」
ミカが、カップを両手で包みながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「これからの“皇の時代”って、自分自身に正直になることが大事になるんでしょ。それができなきゃ、自由も自立も手に入らないって」
アイが静かに目を閉じてから、言った。
「そうだね。本音に何があるかを、ちゃんと見つめて、心を整えて、清らかな意図で動けるようになること。それが“魂職”につながるんだと思う。自分を偽ったままじゃ、響かないし、続かないよね」
ユウが笑った。
「でもね、自分では“隠してる”つもりでも、バレてるよ。ちゃんと周りに」
3人の間に、ふっと笑いが広がる。
「あるよね~!なにか抱えてるなってわかっちゃうとき」
「そうそう。大丈夫って言ってても、目が泳いでるとか、口調がぎこちないとか」
「私たち、アイの農場で出会ってから、ずっとお互いを観察しあってきたのかもね。見守るように、そして、ちゃんと感じ取ってた」
「うん…そうやってそれぞれの変化や成長を、少しずつ見てこれた。だからこそ、本音をさらしても安心できる。そんな友達、なかなかいない」
アイが、しみじみとした声でつぶやいた。
「信頼って、こういう時間の中で育っていくんだね。見えないけど、確かにある関係」
「個性はそれぞれだけど、わたしたち、鏡みたいだと思う。互いに、映し合ってる感じ。本当の姿を教え合える」
「……会社員から農家になったって、結局わたし、“着ている服”を変えただけだったのかも」
ミカとユウが顔を上げる。
「農業がやりたかったというより、“親の期待に応えたい”っていう気持ちのほうが強かったのかもしれない。自分の意志で選んだつもりだったけど……また“誰かのため”を優先してたのかも。ミカの言葉で、気づいちゃったんだよね」
ミカは一瞬、言葉を失ったまま、アイの顔をまっすぐ見つめていた。
「ごめん、ミカ。わたし、怒りたかったんじゃない。ただ……悔しかったの。自分の本音をずっと見ないふりをして、勝手に閉じていたから」
ミカの目に涙が浮かんだが、笑顔でうなずいた。
「大丈夫だよ、アイ。気づけて、ほんとうによかったね」
ユウが、静かにふたりの様子を見守ってから言った。
「ミカ。」
呼ばれて、ミカが振り返る。
「ミカは、思っていることと話していることが一致しているから、強いエネルギーが宿った言葉が自然と出てくるの。それは、誰かを励ますこともできるし、傷つけてしまうこともある。……だから、どんな“響き”を出すか、自分の声が持つ波動を意識的に感じる必要があるのよ」
ミカの目が、真剣な光を帯びる。
ユウは優しく微笑んだ。
「無意識のままでいるとね、空の流れや天体の配置に引っ張られて、自分でも思いがけない方向にエネルギーが動くことがあるの。声は、その人の魂や波動、内面を映し出すからこそ、どんなときも、自分のエネルギーや力の流し方を、自分で選べるように“自分の中心”とつながっておくことが大事なの。」
ミカは、そっと息を吐いた。
「……もっと学びたい、自分が、どんな“波”を生んでいるのか、ちゃんと知りたい」
アイが深く息を吸い、ミカの手をそっと取った。
「あなたたち、本当にいい響きをしてるわね」
キッチンから料理を運んできた奥さんが、ふとそんな言葉を口にした。
「響き…ですか?」
ミカが首をかしげると、奥さんはにこっと微笑んで言った。
「ええ。目には見えないけど…ああ、この人たちは深いところでつながってるなって、わかるの。まるで、再会を喜び合ってるような空気だったから」
ユウが息をのんだ。
「再会…?」
奥さんは湯気の立つスープを差し出しながら、こんなふうに続けた。
「もしかしたら、あなたたち、前世でも一緒だったんじゃないかしら。いえ、“前世”というより、“魂の連なり”って言ったほうがいいかもしれないわね。深く響き合う魂たちは、時代や形を超えて、何度でも出会い直すのよ。ちゃんと、それぞれが必要なタイミングで」
その言葉に、3人の心がゆっくりと沈黙に沈んだ。
——どこかで聞いたことのあるような、でも思い出せない記憶。
ミカは自分の胸に手を当てた。
「たしかに…最初に会ったとき、なぜか懐かしい感じがした。何も知らないはずなのに、安心できるっていうか…」
「わたしも。アイの声を聞いた瞬間、涙が出そうになったの」
ユウの目も潤んでいた。
アイは黙ってうなずいたあと、静かに言った。
「じゃあ、今夜は…今ここにある“本音”だけじゃなくて、その奥にある、魂からの声に耳を澄ませてみよう」
ミカとユウもうなずいた。
3人の中で響きあった本音たちが、今、やさしい光になって広がっていった。
共鳴小説:銀河のリズム、地上の鼓動
銀河のリズム、地上の鼓動-わたしたちは響き合うために出会った-をキャッチしてくださったあなたへ

