【皇の時代】魂の旋律が、言葉を超えて触れ合うとき①本音の扉が開く時[共鳴小説]
光が、空と湖をやさしく染めていた。湖畔のペンションに到着した三人は、しばし言葉を失って、ただその景色に見入っていた。
「わあ……」
ミカが小さく息を呑んだ。空に浮かぶ雲が綿菓子のようにほどけながら、淡い金色に照らされている。風もなく、水面は鏡のように静かだった。
「時間が止まってるみたい…」と、ユウが呟いた。
アイは車から荷物を下ろしながら、深く息を吸い込んだ。
「…空気が全然違う。体の中が、すーっと浄化されていく感じ」
「ここに来られて、よかったね」
ミカがそっと言い、三人はうなずき合った。
ペンションは木造りの温かみある建物で、湖にせり出すように立っていた。玄関の扉を開けると、薪の香りがふわりと漂い、どこか懐かしい感覚に包まれる。
「いらっしゃい。遠いところをありがとうね」
迎えてくれたのは、60代くらいのご夫婦だった。笑いじわの深い奥さんと、穏やかな目をした旦那さん。手を取り合うようにして並ぶその姿が、三人にはすぐに伝わった。
——この人たちは、自分たちの人生を生きている。
「わたしたち、長い間ずっと会社勤めだったの。でもね、50過ぎて、ようやく“本当にやりたいこと”が見えてきたの。ペンションをやろうって決めたのは、人生を自分で選び直したいって思ったからなの」
奥さんが、淹れたてのハーブティーを持ってきながら笑った。

「簡単じゃなかったけどね。親の反対も、お金のこともあって。でも、気づいたの。“好き”を選ばないまま人生が終わっちゃうのが、いちばん怖いって」
その言葉に、三人は深く頷いた。
部屋に案内され、荷物を置いたあと、三人はテラスに出て、夕暮れの気配を感じながら、並んで腰を下ろした。湖の向こうから、波の音も聞こえないほどの静寂が訪れていた。
「今夜は、満月に近いんだよね」
ユウが空を見上げて言った。
「月のエネルギーが強いときって、普段見えないものが見えやすくなるんだよね」
ミカがゆっくりと頷きながら、湖面に目を落とした。
「思い出すなぁ…アイの農場で会ったときも、ちょっとしたリトリートみたいだったよね」
アイも微笑んだ。
「うん。2泊3日、自然と響き合う農体験『土に触れ、心をひらく時間』。あの日から何かが変わった。…というより、何かを思い出した感じがする」
「そうだね。あの日から、わたしたち、少しずつ自分自身を取り戻していった気がする」とユウ。
しばらく黙っていたミカが、ぽつりと言った。
「今なら、あの時話してくれてた“響き”の意味が、少しだけわかる気がするんだ。“誰かとつながる”って、安心の中で本音を出せることなんだよね」
アイが深くうなずいた。
「本音って、時に痛いし、ぶつかることもあるけど…でも、本音を受け取った時に、本当に響き合える関係になれるんだって、この前のことでわかった気がする」
ユウは、少し目を伏せて、ぽつりと漏らした。
「怖くて言えなかったこと、ずっとあった。でも、ミカがアイに正直でいてくれて…私の中の恐れまで、砕けたの。ほんとうに、ありがとう」
ミカがふと笑った。
「わたし、無意識だったんだけどね。でも、そう言ってもらえると、ちょっと救われる」
「わたしも…」とアイ。「人の目を気にして、“ちゃんとやらなきゃ”って思いすぎてた。でも、あれで全部剥がれて、ようやく呼吸できるようになったのかも」
静かな湖面に、光がゆらゆらと揺れていた。
言葉のない時間が、やさしく三人を包んだ。
まるで、湖も、空も、木々も、すべてがこの時を祝福しているかのようだった。
それぞれの「本当の声」が、静かに内側から響きはじめていた。
——これは、再会のリトリート。そして、新たな「響環」の始まりだった。

