皇の時代の日々『日常に広がる光と響き』⑥静かな卒業 ― ミカ、次の扉へ

共鳴小説
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退職の意思を伝えた日、社内の空気が少しだけざわめいた。
「えっ、辞めるの?もったいないよ」
「何かあったの?」
「次、どこ行くの?」

それぞれの言葉に、心配や好奇心や、少しの動揺が混じっていた。
ミカは静かに笑いながら答える。
「ううん、まだ、先のことは決めてないけけど大丈夫。ちょっとのんびりしようかなと思って」

笑ってみせても、胸の奥では少しだけ違和感が膨らんでいた。
──やっぱり、会社には祖の時代のエネルギーが多い。
周りの人の反応を見て、改めてそう感じた。

みんな理由を知りたがる。
「何かあったのか」「安定を捨てて大丈夫なのか」
でも、それは彼らの中の安心のかたちが、まだ外の世界にあるからなのだろう。

(私も、そうだった)
新しい時代の話をして、みんなにも一緒に変わってほしいと願っていた。
でもそれは、ミカの中の依存心だった。
「わかってほしい」「一緒に行こう」という優しさに見える執着。

今ならわかる。
自由と自立と自己責任って。

祖の時代とともに消えていくものがある。
そしてそれを選ぶ人もまた、尊重されるべき存在。

誰かに説得されることじゃなく、
それぞれの魂が自分で決めてきていることなんだ。

それが自由だし、自己責任なんだ。

年内での退職が正式に決まった。
残務処理や引き継ぎ、有休の消化を考えると、
あと二ヶ月もすれば、この職場ともお別れになる。
胸の奥で、静かな感謝が芽生えた。
──この場所があったから、私は自分を知れたんだ。

そんなある日の午後だった。
あまり話したことのない男性スタッフが、ミカのデスクに近づいてきた。
彼の名前は高橋蒼(そう)。
いつも控えめで、口数の少ないタイプの人だ。

「ミカさん」
「うん?」
「突然でごめん。……ミカさんって、いつも楽しそうにしてたよね」
「え?」
「何があってもよかったとか言って、笑ってるというか。
 そういうの、いいなってずっと思ってて。
 なんで、そんなふうに楽しくできるのかなって、聞きたかった」

その瞬間、ミカの心の中で小さく弾けた。
──きた! これ!
横浜で陽子に言われた言葉がよみがえる。

こちらから皇の時代の話を周りに教えようなんて思わなくていい。
世の中には祖の人のほうが多くて、変わりたくない人のほうが多いのだから。
ただね、『どうしてそんなに楽しそうなの?』って
自分から聞いてきた人がいたら、その人には話してあげればいいの。

まさにその時がやってきたのだ。

「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しい」
ミカは穏やかに笑いながら言った。
「よかったら、明日のお昼、一緒にごはん行かない?
 その理由、少し話せるかもしれない」
「うん、ぜひ」蒼が少し照れたように笑う。

翌日、近くのカフェで二人はランチを共にした。
窓際の席に秋の陽が差し込み、やわらかく二人を照らしている。

ミカはバッグから、今までに作成した『響環ZINE』を取り出した。

「これ、私たちが作ってる読み物なんだ。今、時代の転換期なんだって。
 新しい時代について知ったことを、私たちの目線で書きまとめてるの」

蒼は興味深そうにページをめくりながら、静かにうなずいた。
「……なんか、壮大ですね。でも、すごく納得できる。
 理屈じゃないけど、読んでるだけで気持ちが軽くなる」

「うん、私も最初、そう思った。春にね、農業体験に参加したのだけど、その農場が自然栽培で作物を育てていてね、宇宙のリズムとかを研究されてたの」
ミカの声は柔らかく、どこか誇らしげだった。

「そこで、これからの時代について聞いたの。みんなで勉強会を開催したり、この間は収穫祭をしたんだよ。」

「へぇ、すごい。ミカさん、勉強熱心なんですね」

「勉強っていうか・・・みんなでおしゃべりしてて楽しいの。これからはね、思ったことが実現する時代なんだって。だから、自分がいつも何を思っているか、じつはすごく気をつけているんだよね」

その瞬間、彼女ははっきりと感じていた。
この退職は、終わりじゃない。
自分の響きを世界に広げるための始まりなのだと。

窓の外では、秋の風が木の葉を揺らしていた。
その風はまるで、新しい時代の合図のように優しく吹いていた。

響環ZINE vol.1 共鳴の始まり

響環ZINE vol.2祖の時代から皇の時代へ

響環ZINE Vol.3 魂職への扉がひらくとき

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