皇の時代の日々『日常に広がる光と響き』③あの場所からの手紙

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皇の時代の日々『日常に広がる光と響き 』②アイからの今ここを味わう収穫祭への招待状 

カタン。そのとき、ポストの音がした。
尚子が玄関に出ると、アイの筆跡で書かれた封筒が届いていた。
“ひびきの輪 収穫祭のご案内”

あの日の風、あの場所の光。
どれも遠い記憶のようでいて、確かに今も心の中で息づいている――。

手に取ると、なぜか胸があたたかくなった。
リビングに戻り、つぐみを呼んで封を開ける。
中には、アイからのメッセージが添えられていた。

今回のひびきの輪は、いまここを味わい、
この世界の豊かさを心から慈しむための収穫祭です。
それは、日々の中で見過ごしてきた小さな喜びをもう一度すくい上げ、
心の奥で静かに受け取り、その豊かさを分かち合うための時間です。

尚子は読みながら、胸の奥で何かがほどけていくのを感じた。
「小さな喜び」――その言葉が、今の自分たちにまっすぐ響いた。
頑張り続けてきた時間の先に、ようやく受け取ることを学ぶときが来たのかもしれない。

「行こう、家族で」

尚子が言うと、つむぎも笑顔で頷いた。
「私、お姉さんたちに何かプレゼントを用意して行きたい」
つむぎの言葉に、尚子は少し驚きながら「すてきね、つむぎ」と答えた。

その瞬間、尚子は心の奥で何かが静かに結び直されていくのを感じた

――つむぎの不登校の日々も、無駄じゃなかったんだ。
つむぎの試練ではなく、母である自分が「何を大切に生きるのか」を問われていた時間だったのだ。
人と比べて、正しさを探して、必死に頑張ることが当たり前だった世界。
けれど、つむぎが教えてくれたのは、頑張らなくてもいい場所の存在だった。
それは、祖の時代の価値観を手放し、皇の時代の生き方――
「心の声を信じて、自分のペースで生きる」ことを学ぶための出来事。
つむぎは、問題を起こした子ではなく、新しい時代の案内人だったのだと、今ならわかる。

尚子は思った。
皇の時代は、きっとこうした――ささやかな響きから始まっていたのだと。

ポストの中に、一通の封筒が光を受けていた。
手に取ると、やわらかなクリーム色の紙に、見覚えのある筆跡が浮かぶ。
──「ひびきの輪 収穫祭のご案内」

ミカは思わず胸の前でその封筒を抱きしめた。
紙の質感からも、手のぬくもりのようなものが伝わってくる。
それは単なる招待状ではなく、心の奥で小さく鳴り響く呼びかけのように感じられた。

あの春の日の農体験から、季節は静かに実を結び始めている。
アイの農場で、土と風と光を感じながら過ごした時間。
あの場で交わした言葉が、思いのほか強く、自分の中で生き続けていることに気づく。

封を開くと、アイの丁寧な字でこう書かれていた。

皇の時代の訪れを、みんなで祝いながら――。
穏やかな時間を分かち合えることを楽しみにしています。

その言葉を目にした瞬間、ミカの胸の奥で何かがゆっくりと溶けていった。
日々の忙しさに追われるうちに、見えなくなっていた小さな光たち。
朝のコーヒーの香り、風に揺れるカーテンの音、夕焼けの中を帰る人の笑顔――
それらがひとつひとつ、まるで贈り物のように感じられ始めた。

あの日、アイが話していた「皇の時代」がふと蘇る。
“好きなことを、楽しく、楽に生きる時代”
“自分の心の声に従うほど、世界がやさしくなる時代”

あのときは少し夢のように聞こえた言葉が、今は確かに、身の回りに広がっている。
仕事でも、人との関わりでも、どこかで空気が変わったような――
力を入れずとも、自然と流れが整っていく感覚。
まるで見えない何かが、優しく背中を押してくれているみたいだった。

ミカは手紙を机に置き、窓の外を見た。
歩道の隅に咲く秋桜が、風に揺れている。
光が花びらを透かし、地面に淡い影を落としていた。
その穏やかな揺らめきが、まるで時代の呼吸を映しているように見えた。

「そうか……本当に始まってるんだね」
小さくつぶやくと、胸の奥に温かい波が広がった。

皇の時代――
それは特別な誰かだけのものではなく、
こうして日常の中で、自分自身が静かに受け取っていくものなのかもしれない。

再びひびきの輪で出会えた人たちと会える。
土の香り、笑い声、湯気の立つお茶、そして音楽のような言葉の交わり。
それらすべてが、また新しい響きとして重なりあうのだろう。

封筒をもう一度手に取り、ミカは封を撫でた。
その表面には、淡い金色の光が差し込んでいる。
まるで宙からの返事のように、柔らかな輝きが封筒の縁を包んでいた。

「ありがとう、アイ」
そう呟いたとき、風がカーテンを揺らし、どこからか鳥の声が聞こえた。
その音がまるで合図のように響く。

──さあ、次の季節へ。

ミカは深く息を吸い、心の中で静かに決めた。
収穫祭の日、今度は自分も受け取る側として、あの輪の中に座ろう。
みんながそれぞれの場所で紡いできた「皇の時代」の話を聞けること。
その響きを感じ取ることこそ、いまの自分にとっての受け取ることだと、ミカは思った。

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