皇の時代の日々『日常に広がる光と響き』⑤夕暮れに吹く新しい風

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夕陽がゆっくりと傾き、農場を金色に染めていた。
笑い声が遠ざかり、祭りのあとに残ったのは、まだ空気の中に漂うやさしい余韻だった。

ミカは、テーブルの上の紙皿をまとめながら、ふと手を止めた。
風がふわりと頬を撫で、花壇のコスモスが小さく揺れた。
──ああ、終わったんだ。けれど、何かが始まった気がする。

ユウは焚き火のあとを片づけながら笑った。
「みんなの顔、よかったね。全員が楽しそうだった」
「うん。まるでこれからの世界を先に体験してるみたいだった」
と、アイがうなずく。彼女の声はどこか透き通っていて、祭りの光をまだまとっているようだった。

「尚子さんたちも、カフェの夢を本気で話してたね」
「梨乃さんも、自分の仕事が、自分の癒しにつながってるって気づいたって。あの笑顔、素敵だった。」

ミカは二人の会話を聞きながら、静かにカゴの中のワインの空瓶を見つめた。
自分が持ってきたのは、買ってきた焼き菓子とワイン。
みんなが手づくりのものや、自分の想いを形にした贈り物を渡している姿を見て、少しだけ胸が痛んだ。

──私には、何ができるんだろう。
何を生み出す人になれるんだろう。

その問いが、ふと風に溶けた。
空はオレンジ色からピンク色へ、そして紫へと変わっていく。
焚き火の残り香がやわらかく漂い、虫の音が静かに響きだした。

「ねえ、ユウ」
ミカは、薪を片づけるユウの背中に声をかけた。
「うん?」
「私……会社を辞めようと思う」

アイが振り向いた。驚くというより、すでに知っていたような表情で微笑む。
「そう感じたのね」
「うん。今日のみんなを見てて思ったの。
 まずは手放すって大事かなって」

ユウは黙ってうなずき、空を見上げた。
星がひとつ、ふっと瞬いた。

「来年はね、ミカの星の配置に転換の風が吹くんだよ」
「転換の風?」
「うん。古いパターンを手放して、魂の本流に戻るとき。」
 
ユウは、焚き火の残り火を見つめながら静かに続けた。
「今日みたいに、誰かに言われる前に、あ、もう決めたって感覚で動けるのが、ミカの強みだと思うよ。先に風を感じてるんだね」

ミカは少し笑ってうなずいた。
「……なんか、それ聞いて安心した。新しいことは、まだ決めてないんだけど」
少し間を置いて、空を見上げる。
「この前、3人で行った湖のペンション、覚えてる? あの朝の光が忘れられなくて……。
 あそこには、また行ってみようかなって思ってるの」

「いいね」アイが言った。
「風に呼ばれて動くには、ぴったりの場所。きっと次のページが開くよ」

夜風が三人の間をすり抜けた。
木々がざわめき、遠くで鈴虫が答えるように鳴いた。

「それ、いいね」ユウも笑った。「星の導きも、そこへつながってるのかもしれない」
「そうかもね」ミカは、胸に手を当ててそっとつぶやく。
「何かに呼ばれてる気がするの」

焚き火の最後の炎が、ぱちりと弾けた。
その音が、まるで祝福の合図のように響いた。

アイが、静かに空を仰ぎながら言った。
「今日みたいに楽しく過ごして、皇のエネルギーを満たすこと。
 それが、古い祖のエネルギーを溶かしていくんだって、陽子さんも言ってたよね。
 私たちは、抵抗と戦うんじゃなくて、ただ新しいを広げていく存在だって」

ユウがほほ笑んだ。
「そう。皇の時代は宇宙のルールを守れば、明るく楽しい時代。今、幸せなら永久に幸せ」

ミカはその言葉を胸の奥で繰り返した。
──今、幸せなら永久に幸せ
そう思うと、これからの道が少し明るく見えた。

焚き火の残り火が風に揺れ、夜空には星が瞬きはじめた。
祖の時代の影は、もう静かに遠ざかっていく。

そして、新しい風が確かに吹いていた。
それは皇の時代という名の、未来からの呼吸だった。

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