銀河のリズム、地上の鼓動ー不登校と自立共育②ゆっくり、のんびり、ゴロゴロ、ボーッと

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銀河のリズム、地上の鼓動ー不登校と自立共育①家族の距離 

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皇のルールは、ゆっくり、のんびり

何も特別なことは起こらなかった一日。つむぎは朝からずっと自分の部屋で絵を描いていて、昼食の時に少し話をしたけど、学校のことや、将来のことは、何も話さなかった。

夕食の片付けで慌ただしくしていると、リビングでぼんやりしていたつむぎが突然、「お母さん、今日はいい一日だったね」 と言ったのだ。

つむぎの表情は穏やかで、心から満足しているように見えた。

そう言い残すとつむぎは「もう寝るね」と行ってしまった。

つむぎが学校に行かなくなって、もうすぐ半年になる。最初の頃は、毎朝が戦場だった。「今日は行ける?」「体調はどう?」「担任の先生が心配してるよ」――そんな言葉を投げかけては、つむぎの表情が曇るのを見て、自分も沈んでいく日々。

友人たちからは「カウンセリングを受けてみたら?」「転校も考えた方がいいんじゃない?」「うちの子の時は…」と、善意のアドバイスが次々と寄せられた。どれも的確で、どれも親身で、どれも――つむぎには当てはまらないような気がした。

(わたしは、つむぎに学校へ行ってほしいので悩んでいる)

その想いを、初めて言葉にしてみた。声に出すと、妙にぺらぺらと軽い響きだった。

――でも、本当にそうなのだろうか。

キッチンに立ち、水を一杯飲む。キッチンの窓から薄い月の明かりが見えた。

”ひびきの輪”で「魂職って…生まれたときから決まってる、みたいなものなんですか?」
とつむぎが小さな声で尋ねたことを思い出す。

「人にはそれぞれ、自分にしかできない役割があって、その役割は魂の記録の中に書き込まれている」とアイさんが話してくれた「魂職」のこと。

尚子の心に小さな違和感が生まれた。 (もしそうだとしたら、つむぎが学校に行かないのは…)

違和感は、やがて一つの問いになった。 (わたしは、つむぎの魂の声を聞こうとしていたのだろうか)

学校に行くことが当たり前だと思っていた。社会に適応することが大切だと信じていた。つむぎのためを思ってのことだった。

でも、つむぎの表情を思い返してみると、学校の話をする時だけ、何かが曇っていた。まるで、自分の中の大切な何かを隠さなければならないような。

(わたしは、つむぎを学校という枠にはめ込もうとしていたわけではない。でも、結果的に…)

尚子は、そっと階段を上がり、つむぎの部屋の前を通りかかった。ドアの隙間から、規則正しい寝息が聞こえる。平和な寝息だった。

朝の光、新しい一日

朝、尚子は起き上がり、いつものように、朝食の準備をしなければと思ったが、手が止まった。

(わたしは、なぜそんなに急いでいるのだろう)

昨夜のつむぎの言葉が、また響いた。 「お母さん、今日はいい一日だったね」

(つむぎにとって、いい一日って何だろう)

学校に行った日ではなく、友達とたくさん遊んだ日でもなく、何か特別な体験をした日でもなく――ただ、自分のペースで、自分のやりたいことをして過ごした日。

それが、つむぎにとって「いい一日」だった。

尚子の胸に、静かな気づきが降りてきた。

(わたしは、つむぎの幸せを、わたしの基準で測ろうとしていた)

ベットから出て、リビングに行き、ソファに座る。部屋の景色が、いつもと違って見えた。同じ風景なのに、何かが変わって見える。

(つむぎは、もう答えを持っているのかもしれない)

自分にしかできない役割。魂の記録に書き込まれた職業。

つむぎが絵を描いている時の集中力。「ひびきの輪」で見せた、心から安らいだ笑顔。

(つむぎは、つむぎの道を歩もうとしているのかもしれない)

そして、もう一つの気づきが生まれた。

(では、わたしは?わたしの魂職って何だろう)

つむぎを学校に行かせることに必死になっていた時間。友人たちのアドバイスに一喜一憂していた日々。カウンセラーや先生との面談で、何とか「解決策」を見つけようとしていた努力。

それらは全て、外側から借りてきた答えだった。

(わたしは、わたし自身の声を聞いていただろうか)

朝の静寂の中で、尚子は初めて、自分の内側に耳を傾けてみた。

すると、小さなささやきが聞こえてきた。

――つむぎを信じてあげて。

それは、誰の声でもなく、でも確かに聞こえる声だった。

――あなたも、あなた自身を信じて。

尚子の目に、涙がにじんだ。それは悲しみの涙ではなく、何かがほどけていく安堵の涙だった。

(わたしは、つむぎに学校へ行ってほしいのではなかった。つむぎに、幸せになってほしかったのだ)

そして、つむぎはもう、自分なりの幸せを見つけ始めているのかもしれない。

階段から、軽やかな足音が聞こえてきた。つむぎが起きてきたようだ。

「おはよう、お母さん」

振り返ると、つむぎが朝の光を背負って立っていた。寝起きなのに、その表情は清々しく、何かを決めたような強さがあった。

「おはよう、つむぎ」

尚子は、いつもより柔らかい声で答えた。

「今日も、いい一日にしようね」

つむぎが、ほころぶように笑った。そのとき尚子は気づいた。この笑顔こそが、自分が本当に見たかったものだということに。

学校に行く、行かないということではなく。 つむぎが、つむぎらしく生きていること。 それを、心から応援できる自分でいること。

朝の光の中で、親子の新しい一日が静かに始まった。

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銀河のリズム、地上の鼓動 ―魂職に出会うまで⑩ はじまりのささやき―尚子の目線

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