銀河のリズム、地上の鼓動 ―魂職に出会うまで ③見失った声 〜梨乃〜
銀河のリズム、地上の鼓動 ―魂職に出会うまで⑥第2回「ひびきの輪」開催
銀河のリズム、地上の鼓動 ―魂職に出会うまで⑦祖の時代の終焉と皇の時代の芽吹
銀河のリズム、地上の鼓動 ―魂職に出会うまで ―ひびきの輪の後で①梨乃の変化
交差する本音 〜それぞれの揺らぎ〜
農場の小屋の前。午後の柔らかな陽射しが差し込む。
収穫作業を終え、3人は冷たい麦茶を片手に腰を下ろしていた。
「いいな、アイは。だってもう魂職をやってるもんね」
何気ないミカの一言だった。
けれど、その瞬間、アイの胸の奥がチクリと痛んだ。
そして、思わず声が荒くなる。
「ミカはさ、楽しいことだけやってればいいと思ってるから、
本気で生きる覚悟がないんだよ。だから魂職が見つからないんじゃないの?」
自分でも驚くほど、言葉は鋭く、冷たくなっていた。
ミカが目を見開いたままぽつりと言う。
「待ってよ…遊びやリラックス、楽しいが大事って…教えてくれたの、アイだよ?」
胸の奥にアイの言葉が刺さったけれど、それよりもショックだったのは――。
「私のこと、そんなふうに思ってたの……?私は魂職を生きてるアイ、すごいなって……」
ミカはただ、素直に憧れていただけだった。
アイは息をのんだ。
言い返したかったけど、言葉が出てこなかった。
(わたし…何でこんなに怒ってるんだろう?)
沈黙が畑に落ちる。
ユウが気配を読んで、「今日は、ここまでにしよう」と声をかけた。
みんな頷き、言葉少なにそれぞれの帰路についた。
ひとりになったアイは、畑の端に腰をおろして空を見上げた。
風がやさしく葉を揺らす音が、怒りを鎮めていく。
(ミカは悪くない。
むしろあの子の言葉は、時々…真実を突く)
でも、ミカの「いいな」という言葉に、どうしても心がざわついた。
「魂職」という言葉に込めた自分の想いが、軽く扱われたような気がした。
数年前、会社勤めをやめて実家の農業を始めた。農業は大切な仕事だ。
自然に寄り添い、土とともに生きることで、自分も癒されていく。
でも――最近、ふとした瞬間に問いが浮かぶようになった。
「このやり方は、本当に自分がやりたいことなの?」
農作業をしている時間の中で、いつも夢中になっていたのは“理由”だった。
(本当は、もっと違う場所に心が惹かれてる)
土がなぜ蘇るのか、月の影響、微生物たちの見えない営み。
観察し、記録し、理屈を組み立てる作業。
それは、理論の研究だった。
誰かに言われたわけでもない。
ただひとり、言葉や数字、自然の様子を見ながら宇宙のリズムを解読している時間――それこそが、自分の内側からエネルギーが湧いてくる瞬間だった。
「わたしは、自分の存在を、“会社の歯車”としてではなく、
“自分にしかできないこと”で輝かせたかった。でもそれは“農業”だったの?」
思わず、口に出していた。
(ほんとうは、農業そのものよりも、“なぜ地球と調和する必要があるのか”意識とエネルギーを解き明かすほうが、ずっと惹かれてた)
ミカの言葉は、触れてほしくなかった場所を無意識に突いてきた。
(だから、あんなに過剰に反応しちゃったんだ…)
夜、ミカから届いたメッセージ。
「今日はごめんね。アイのこと、ちゃんとわかってなかったかも。
でも、アイの中にある“本気”って、いつもわたしに力をくれるんだよ」
アイはスマホを胸に静かに抱きしめた。
本音を突かれるのは、痛い。でも、それがなければ見えないものがある。アイは痛みの裏に、感謝の種があることに気づいた。
両親の期待、自分の責任感、社会的な理解。
会社員を辞めると決めた時に、自分の本音に正直になれたと思っていたけど、本当の自分に戻ったわけじゃなくて、スーツから作業着に変わっただけで、心の奥底の“本当の願い”は、まだ出せていなかったのだ。
(わたしも、自分の“ほんとう”に正直になりたい)
「農」は、大事な土台。
でも、「理論を研究して、仕組みとして伝えること」が、
わたしにとっての“ほんとう”なのかもしれない――。
揺らぎの中で、アイの中の「本音」が、静かに輪郭を持ち始めていた。
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