焚き火の火が少し落ち着いたころ、つむぎの母・尚子(なおこ)が、そっと輪の中で肩の力を抜いたように息を吐いた。
やさしい問いが、扉をひらく
娘のつむぎが、自分から「絵を描くのが好き」と口にしたのを聞いたとき、思わず胸が熱くなった。
つむぎがあんなふうに自分のことを話すなんて、久しぶりだった。
(この子、少しずつだけど、変わってきてるのかもしれない…)
尚子は、第一回のひびきの輪の帰り道、つむぎの目の奥に、わずかだけれど光のようなものを感じていた。
でもそれでも、「やっぱり学校には行かせないと」「将来のために普通に戻らなくちゃ」と、心のどこかで焦っていた。
周囲の目、親戚からの言葉、夫の表情。
“娘のため”と言いながら、実は自分自身が不安を抱えていたのだと気づき始めていた。
学校に行かない子どもたち
アイが、柔らかな声で言葉を継いだ。
「…たぶん私たちの多くが育ってきた“祖の時代”は、“ちゃんとしなきゃ”“普通はこうでしょ”“これが正解”って、周囲に合わせて従って生きることが当たり前だった」
尚子は、まるで自分に向けられた言葉のように感じて、思わず目を伏せた。
「でも、“皇の時代”は、きっともっとおおらかで自由。
比べなくていいし、答えも一つじゃない。自分の感覚を信じて、自分のリズムで生きていい時代」
アイの視線がふわりと輪を包み込むように巡り、尚子の目と、ふと合った。
「子どもたちは、もうその新しい時代の感覚を持って生まれてきてる。
だから、私たち大人の側が“何が正しいか”じゃなくて、“この子が本来持っているもの”を信じてみること。
それが、いちばんの後押しになるんじゃないかなって思うんです」
その言葉に、尚子の中で何かがほどけるような感覚があった。
(自由で、いいんだ…)
思い返せば、つむぎは幼いころから、静かな場所で空を見上げている子だった。虫や草花にも詳しくて、自分の世界をじっと見つめていた。
“どうしてみんなと同じにできないの?”と、問いかけるような瞳を、何度投げかけてしまっただろう。
つむぎの奥にあったのは、「できない」のではなく、「もうすでに、自分の感性を持っている」ということだったのかもしれない。
尚子はそっと、つむぎの隣に置いた手に触れた。
つむぎがちらりと見上げて、少し驚いたように笑う。
その笑顔は、確かに前よりも軽やかだった。
「ごめんね」と言葉にする代わりに、尚子は手を優しく握り返した。
この子はこの子のままで、大丈夫。
今までは“導く”つもりで、“守る”つもりで、焦っていたけど――
これからは、「尊重して、見守る」。
それが、わたしにできることだと、静かに思えた。
輪の中の火が、ぱちんと音を立てた。
それは、母と娘の間にあった見えない壁が、ひとつ溶けていく音のようだった。
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